勘違いでアングラに憧れていた人の話

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今から10年ほど前の話。当時はmixiの全盛期で、日記機能で毎日の出来事をフレンドに向けて書いたり、コミュニティ機能で共通の趣味の人と知り合ったりして、皆お行儀良く、実に平和で、かつ楽しげにサービスを堪能していた。そんなmixiの盛り上がりで日本にもSNSというものが浸透してきたころ、myspaceという黒船が突如やってきた。

上部に自分の写真と音楽プレイヤーが並び、その下にはフレンドの書き込みが並ぶ簡易掲示板。そして勝手にフレンド登録されているオジーとトム*1myspaceでは簡単に自作曲が公開できるうえにユーザー同士のコミュニケーションが容易で、当時の音楽サービスとしては画期的だった。その証拠としてmyspaceアマチュアミュージシャンからそれはもう熱烈に歓迎され、稚拙な楽曲でも再生数は伸び、熱心なコメントもフレンド同士で書き込みあって、慢性的に承認欲求が満たされないミュージシャンという弱い生き物にとって正に天国みたいな場所だった*2

そんな状態だったものだから、myspaceには玉石混淆どころか、海のものとも山のものともつかない変な音楽が氾濫することとなる。天国は魔窟へと変貌してしまったのだが、当事者にとっては素晴らしい場所に違いなかった。そのような場所に紛れ込むと普段接することのない種類の音楽に出会ってしまうもので、そこでぼくはノイズミュージック*3というものを知ってしまったのだ。

「こんな表現があるのか」という驚きとともに「全然意味がわからん」という衝撃。そこで普段Blankey Jet Cityを愛聴していたウブないりあ少年は思ってしまった。「これを理解できないのは自分が未熟だから」だと。

それからはノイズを理解するための努力の日々だった。ぼくはまずノイズを自分でも実践することにした。エレキギターに滅茶苦茶なエフェクトをかけてみたり、マイクの前で奇声を上げたり、部屋で倒れたりした*4。次に生のノイズを体験する必要性を感じて、myspaceで気になったノイズミュージシャンのライブを見に行った。そうして都内のライブハウスへ通うようになり、果てはmyspaceで知り合った相方と高円寺にある無力無善寺*5というカルトの極北みたいなところでイベントを開催するようにまでなってしまった。

そういった生活を続けていく中で、「これを理解できないのは自分が未熟だから」という考えは「これを理解できたら凄いヤツになれる」という思想に変わっていった。いつの間にか自分にとってノイズは人生で目指すべき指針となっていたのだ。無論、理解するために演奏しているのであって、理解できているわけではない。形だけはそれっぽくなってきたが、依然としてぼくはノイズのなんたるかを掴めないままに自分の魂を雑音に込めるという虚構を演じていた。

数年の時が流れ、ぼくは普通のロックバンドをやっていた。相方とは喧嘩別れをしたし、結局ノイズを理解することもできなかった。凄いヤツにぼくはなれなかった。ついでにmyspaceも廃墟になった*6。ノイズと触れ合った日々は、ぼくに何も残さなかった。

そして今、ぼくは音楽自体をやっていない。ノイズを、音楽をやっていた日々を思い返すと、辛かったなって思う。具体的な目標も持たずがむしゃらに突き進むのは自分を傷つける行為でしかない。しかし同時に楽しかったなとも思うのだ。特にノイズをやっていた頃は楽しかった。全く理解できなかったし、なんであんなにムキになっていたのかも今となってはよく分からないけれど、あれはあれで充実していたなって。毎月自主イベントを行って、揃いも揃ってしようもない音楽と人間ばかりが集まった。それが面白かった。

廃墟となったmyspace。かつて新しい時代を夢見たあの場所には、道を踏み外した後悔と、新しい音楽を知った喜びが残っている。そしてノイズにはやっぱり意味わかんねえという想いと、初期衝動の熱がくすぶっている。

はたしてノイズとはなんだったのか?それは音楽とは何かという根源的な問いに近い。絶対の答えは無く、個人個人で解釈は変わるだろう。だからこそ、答えを求め続けることでしか意味を見いだせない。

今でもたまにノイズを聴いて「分かんねえなあ」と思うんだけど、その「分からなさ」が面白かったりする。そう考えると、やっぱり昔の自分も分からないなりに楽しんでたんだなって、迷走しててみっともなかったけど、悪くない青春だったのかなって。今になってそう思うのだ。

おわり

*1:myspaceの代表者。フレンドとして初期登録されている

*2:あのときの活気は今のネットではあまり感じられない独特の熱を帯びていて、新しい時代の幕開けを思わせるには十分だった

*3:文字通りノイズで演奏する音楽のこと。世界的に著名なアーティストが日本には多く、非常階段、ハナタラシMerzbowなどが代表的

*4:倒れるのは大事なことだ

*5:妖怪の集まりみたいなとんでもない場所。出演者よりも店長が怖い。一万円払えば何をしてもいいという敷居の低さがウリ

*6:最近はまた賑わってるらしいけどよく知らない